03
だが、そう簡単に信じてもらえるわけがない。
「really…?」(本当かよ)
遊士は驚きを残しつつも疑いの眼差しを向けてくる。
「どうするんですか政也様?」
「考えてねぇ」
だと思った。
俺が政也様に呆れていると今まで政也様に向けられていた視線が俺に向けられた。
「アンタは…」
「コイツは俺の部下だ」
政也様から視線で促され俺は片膝を付いて礼をとった。
「政也様配下、黒脛巾組(くろはばきぐみ)忍頭、八神 慎」
軽く頭を垂れると何故か政也様の時と同じぐらい驚かれた。
「じゃぁアンタが伊達の竜影か!」
「りゅうえい…?」
聞き慣れぬ名に俺は眉を寄せた。
同じく政也様も意味が解らないと遊士を見返した。
「あ〜、そっか後から付けられた名だったか…?」
一人納得している遊士に政也は説明を求める。
「どういう事だ?」
「…言ってもいいのか?」
過去から来たという俺達に、その話をしてもいいのか迷っているらしかった。
「心配なら俺だけに話せ。本人に言わなきゃ問題ねぇだろ」
「そういうもんか?」
首を傾げた遊士に近付き、政也は話せと顔を近付けた。
いつの間にか遊士の警戒は解けていた。
さすが政也様、というか顔近付け過ぎじゃね?
気にしない遊士様も遊士様だけど…。
政也様は遊士様から話を聞き終えると何故か俺をジッと凝視してきた。
一体何なんだ?気になるじゃないか。
俺の隣に戻ってきた政也様は意味もなく俺の肩を二度軽くポンポンと叩いた。
「…何です?」
「いや何でもねぇ」
「はぁ…?」
さっぱり意味が分からん。
とりあえず政也様の反応から悪い意味では無いらいし。
「政也!立ち話も何だし城に来いよ。竜影も歓迎するぜ」
「おぅ」
そう言って俺達は遊士様に歓迎された。
「遊士様、俺の事はどうぞ慎とお呼び下さい」
「慎な。OK」
「ンじゃ行こうぜ」
いやいや、自然に主導権握ってますけどここは政也様の城じゃありませんから!
細かいことは気にしないたちなのか、遊士様は政也様に促されて城の方へと歩き出した。
肩を並べ、前を行く二人は昔からの知己のように親しげに会話を交わす。
それはきっと血の成せる業だ…。
俺は二人の後ろで空恐ろしい、と服に包まれた腕を擦り合わせた。
◇◆◇
余談
竜影-リュウエイ-とはそのまま竜の影という意。第十七代目伊達家当主に一生涯仕えた人物。影で支え、護り、自ら当主の影武者も務め、何度もその窮地を救った。最期は当主の反対を押し切り、自ら身代わりを名乗り出、その命が散る瞬間まで当主を護ったという逸話が残されている。伊達の守り神としてもその名は遊士の代まで語り継がれている―。
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